南アフリカ第3の都市、ダーバン。
インド洋に面して白い浜が続く美しいリゾート地というイメージがある反面、外務省の海外安全情報では、戦争が起きてるわけでもなければテロリストが潜んでるわけでもない平時の街なのに市街中心域に「十分注意」が出ていて、さらにその中心部のメインストリートは「地球の歩き方」でも「昼間でも徒歩で出歩いては行けない」との注意書きがあります。
そこをレンタカーで通り抜けてみました。確かにここじゃ車を降りたくない。というか、赤信号で止まるのも不安。ゴミが散らかった通りに、なにをやってるのか分からない人がたくさんうろうろしている。商店のウィンドウには鉄格子のシャッターがついてるし、ぎっしり黒人を乗せたミニバスが乱暴に走り回ってる。街を歩いている人も、ほぼ100%黒人。たとえ「地球の歩き方」の注意書きを読まずに入り込んでも、直感的にここはまずいぞと気付くと思うよ。スラム化してるとまでは言わないけれど、かなり荒廃しているのは感じられる。
中心部を抜けて、ダーバンの北部郊外方面に出ると、状況は一変。ゆったりとした敷地に芝生の緑も美しい住宅や店舗が並び、街路樹の植わった道路も整然としている。高台からは海が見渡せ、アメリカ西海岸のような異様に健全な雰囲気(って、カリフォルニアに行ったことないけど)。たぶん、白人とカラード(ダーバンはインド系住民が多い)が主な居住者だと想像されます。
かつてニューヨークも似たような状況にあったはず。ジュリアーニ市長の下でスラム地区の改善政策が行われて、見違えるように治安も改善したと聞きました(ニューヨークも行ったことないけど)。
振り返って、我が国にはそういう中心部が荒廃して郊外に健全な街が広がる、という都市はあまり聞かないですよね。東京を例にとっても、江東、江戸川、あるいは新宿の方にはガラの悪い地域もあるけれど、スラムってわけじゃないし、人が歩けないわけじゃないしね。
なぜ、中心街が荒廃した都市ができるのか。そういえば、今私が住んでいるハラレも当てはまるなんです状態ですけどね。
理由としてまず、物理的に開発可能な土地の面積の違いが考えられる。ダーバンにしても、ハラレにしても、都市部を広げていこうと思えば、どんどん郊外に広げていくことが可能。山地や海にぶちあたることもなく、割と平坦な(道を造れば車で走れる程度)の土地が延々と広がっているので、新市街をどんどん開発していける。荒廃しつつあるエリアから離れて、新天地を開拓することが比較的簡単。日本じゃ、そういう土地があるのって、北海道くらいじなんじゃないでしょうかね。
で、上記の理由もあって、日本では公共交通機関がよく整備されている。限られたスペースなので、その内側に鉄道や地下鉄を縦横に整備して、人々が車じゃなくても移動できる効率的な街ができる。だだっぴろく拡大した都市圏には、幹線の鉄道は整備できるだろうけど網の目のように鉄道網を張り巡らせることは経済的に割に合わない。
公共交通機関が便利なので、日本では中産階級、あるいは富裕層でも電車や地下鉄に乗る。車がステイタス、という面はあるし、一握りのVIPは電車には乗らないだろうけど、一般人が電車に乗ることになんの疑問もない。
他方で、ダーバンのような街だと、郊外に広がった美しい住宅地では車がないと動けない。公共交通機関っていっても、ミニバスくらいしかないし、ミニバスは不便。なので中産階級以上は車が主要な交通手段になる。結果として、車を持てず、公共交通機関に頼らざるを得ない層が、都市中心部に住むという構造にならざるを得ない。とすると、公共交通機関は貧しい層の乗り物ということになり、ますます中産階級の足は遠のく。豊かな人ほど郊外に逃げて行く。
そういえば、世界の有名な観光地では、往々にして高級なホテルほど郊外にあるよね。駅前や空港近くのホテルは良くてもビジネスのレベル。本格的な「ホテル」は郊外で車でしかアクセスできないところにあるのが普通。ま、余談ですけど。
そう、それで、経済格差によって住むエリアが確定され、貧しい層は都心部に、豊かな層は郊外に、となっていくわけですねぇ、たぶん。そして、車を主な交通手段とする中間層、富裕層のために道路はまずます整備されていく。現に南アフリカのハイウェイの整備状況はすばらしい。片側3車線、4車線、5車線の120km以上で飛ばせるハイウェイは快適。
都心部が荒廃した都市ができる理由には、物理的に開発可能な土地の広さ、それに伴う公共交通機関の整備状況、そして住民の経済格差が挙げられると思うのですが、もうひとつ、人種問題があることも無視できないと思われる。歴史的経緯から一般的に黒人が貧しい。いくらアパルトヘイトが終わったといっても、合法的な経済活動で収益を得ている白人のビジネスや土地を取り上げるわけにはいかないし、それこそ逆人種差別になっちゃう。植民地時代の遺産で食ってると言えばそうかもしれないけど、現実には南アフリカの土地を「購入して」入植し、しかるべき「投資をして」財を成した白人が少なくないので、「植民地主義の下で原住民の財産を搾取した」とは言い切れないし。
生まれながらの不平等は是正されるべき、として相続税の課税強化したところで、法人化されている財産には影響は現的的でしょうしね。
どうしても乗り越えられない人種間の壁は、社会の分断を促進する方に働くことはあっても、融合させる方に働くことは、まあないでしょう。結果、固定化した貧困層には黒人が多く、荒廃した都市中心部に住み、ますます白人やカラードの中産階級から蔑視され、取り残され、都市中心部と郊外の分離が進んでしまう。
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ニューヨークで成功したと言われる都市再開発。
ただ古い建築を取り壊して道路やインフラを整えて形を繕ってみても、格差問題を解決しない限りは似たような荒廃地域が別のところにできるだけな気がする。税制や社会福祉政策、南アフリカではさらに積極的差別是正策(Affirmative Action、南アではBlack Empowerment Act)も必要でしょう。それが都市の治安改善、行政の決まり文句みたいですけど「住み良い街づくり」に繋がっていくんでしょうね。
ダーバンの郊外は美しいです。海も近いし、緑も映える。でも、背後にあまりにも暗い都市の分断状況があることを思うと、単純に「すばらしい街だね」って手放しで歓迎できないです。
格差問題が注目を集める日本にも、こんな風に分断された都市ができるのかな。またあるいは、日本以上に格差が広がっている中国沿岸部の都市はどんな具合なんでしょう?
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